「貴方は…」
「うん?何ですか?」
「今、目が光ったんじゃ…」
「ははは…。何かの見間違いでしょう。車のライトが反射したのではないですかな?」
「そうなのか…?」
「という事は、私がこの前見たあなたの目が赤く光ったのも、何かの見間違いだったのでしょう」
「……。」
「ま、そんな事はどうでもいいんですよ。とにかく私はあなたに大変興味を持っている」
「興味…ですか…」
「そう。実はこうしてあなたを呼び出したのには訳がある…」
そう言いながら、総帥は運転手に車を出すように指示をした。
排気量が大きいのか、リムジンは音も無く国道を滑り出した。
15分ほど走ると、この街が日本の中枢である事を象徴するかの如く、巨大なビル群が迫ってきた。
そのビル群の中でも一際高層なビルのターミナルに、滑るようにリムジンは進入し、停まった。
運転手が開けたドアから下りると、夜も10時前だと言うのに沢山の社員らしき人間たちが、エントランス前でこれから下りてくる総帥を迎えようとしているらしい。
私の後から続いて総帥が下りた。
私の身長も186cmと低くはないが、すっと立った総帥はその私より更に高いように思えた。
「さあ、ヴラドさん。着いてきてください」
私を見て微笑むその顔は、とてもTIグループ総帥のイメージは無く、どちらかと言えばハリウッドでも充分主役を張れる程の、整った顔立ちをした好青年であった。
しかし、顔とは相反し、体躯はスーツの上から見ても後背筋が盛り上がり、鍛え抜かれている事が良く判る。
(やはり、モーホーかも…)
総帥に着いてエントランスに入ると、そこは私の館がまるごとすっぽり入ってしまうほどの、広大な吹き抜けのフロアである。
(交通の便もいいし、引っ越してこようかな…)
数人の屈強な男たちが、総帥を取り囲むようにエレベーターに乗り込もうとした。
「いや、君たちはいい」
総帥は小さく手を上げ制止した。
「しかし…」
「いや、この方は大事な私の客だ。私が案内するから、君たちは待機しておいてくれ」
「はい…」
そして、総帥と私は密室で2人きりになった。
「……。」
「……。」
(やばい…のか?)
エレベーターはガラス張りで、夜景が鮮やかに広がりそしてあっという間に小さくなって行く。
「ヴラドさん。この夜景をどう思いますか?」
「え?…あ、あぁ。…綺麗ですね」
(なんだ、このロマンチックな会話は?…ますます、やばい)
先日のトラウマのせいか、こう言うシチュエーションには敏感になってしまっている。
「この夜景を全て、我々の物にしたくはないですか?」
「どう言う意味だ…ですか?」
そう言うと同時にエレベーターは目的の最上階に到着した。
エレベーターのドアが開くと、そこには1階の無骨な男達とはうって変わり、眩いばかりの数人の美女が立っていた。
「会長、お帰りなさいませ」
全員が申し合わせたように深く、そして同じ角度のお辞儀をした。
「はい、ご苦労さん。ヴラドさんを部屋に案内してくれ」
「わかりました。ヴラド様、こちらへどうぞ」
「あ、はい…よろしく」
どうやら、この女性達は会長の秘書のようだ。
その中でも特に美しい女性が、私を案内してくれた。
(私も現代の領主を目論む立場だ。この程度の事で驚くものか。…しかし、羨ましい)
長く広い廊下を歩いて行くと、突き当たりに一際大きく豪華なドアが見えた。
案内の女性はそのドアの前で立ち止まった。
「こちらでございます」
そう言うと、ドアを開け部屋に私を導いた。
「な、なんと…」
ただ、広いだけではない。
豪華…いや、超豪華と言うべきか。
300坪はある部屋のフロアには、バルチックブラウンの御影石が敷き詰められ、30人は座れそうな1枚皮仕上げのソファー(多分、イタリアはシャトーダックスの特注品だろう)、オフィスファニチャーに於いてはいかにもエグゼクティブな空間に相応しい、イタリアの香り漂う高級デスクと周辺家具、什器やパーテーション、装飾品等々が広い空間に見劣りしない程の存在感を示している。
更に圧巻なのは、エレベーターで見たのとは比べ物にならない、広大な夜景が大パノラマのように一望できる、30メートルの幅はあろうかと言う円形のウィンドーであった。
私が声もなく夜景を呆然と眺めていたら、案内の女性が笑みを浮かべながら、
「ヴラド様、いかがなさいました?」
「あ、…いや、しかしさすがに総帥の部屋はレベルが違うものだなぁ…」
「いえ、この部屋は会長のお部屋ではありません」
「えっ。そうなのか?」
「はい。このお部屋はヴラド様のプライベートオフィスです」
「…なんだと!?」
「そう、この部屋はヴラドさん、あなたの部屋ですよ」
そこにはいつに間に入ってきたのか、総帥が笑顔で立っていた。
