店に入ると、一足先に日本に帰っていたゆきが、嬉しそうに小さく手を振り、ウィンクしてきた。
なんとなく、いけない事をしてるような気になり、周囲を見まわしてしまった。
「おはようございます。どうでした?休暇は」
山田マネージャーが近寄ってきた。
「あ、おはよう。なかなか有意義だったぞ」
「それはよかった」
久し振りにあっても、厭味のない好青年だ。
「ブラドさん、今日はフロアレディの勧誘のレクチャーをしましょう」
山田マネージャーと私は、店からは少し離れた国道の反対側の駅周辺で活動する事に決めた。
「じゃ、また僕が見本を見せますのでよく見ておいてくださいね」
山田マネージャーは短期間で、かつこの若さでマネージャーになったのはフロアレディの勧誘が巧みで、ダイアンの女性の半分は山田マネージャーの功績であり、グループのオーナーからも一目置かれているとの噂である。
近々、新規開店する大型店の代表に抜擢される事も決まっているとも聞いている。
女性達にも人気があるが、一切手は出さないと言う、なかなかの人格者だ。
お手並み拝見と行こう。
「ブラドさん。向こうから歩いてくる2人組みの女性を見てください」
「うん?あの、ピンクの服と黒の服の2人組みかな」
「そう。あの二人はどんな女性かわかりますか」
「どう言うって…。多分、OLの友達同士かな?年の頃は22か23歳と言ったところか…」
「違いますね。あのピンクの方は20歳で、黒は18歳、…今年高校を卒業したところでしょうか」
…知り合いなのか?
「多分キャバクラの女の子でしょう。これから出勤ですね。出勤前に時間があって買い物でもしていたのでしょう」
「あー、同業者か…」
「はい。だけど、うちの関連店の娘じゃないですね。多分…。僕は関連店の娘は毎日写真でチェックしてますし…」
努力も怠ってないようだ。
「じゃ、行きましょうか」
「え?同業者に声を掛けるのか?」
「はい。あの二人は今勤めている店に満足はしていません。多分、そろそろ店を変わりたいと考えてますよ」
…何故、そこまで分かる?
山田マネージャーは以前飲み客をキャッチした時と同様に、まるで獲物を追う黒豹の如く素早く、そしてしなやかに人ごみを縫って進んだ。
「おはよう!」
「えっ?あ…おはようございます…」
「あれ、遅刻じゃないの?」
「違いますよぉ。今日は9時出勤なんです」
「あ、そうなの。じゃ、まだ時間あるじゃん。今日は何を買い物してきたの?」
「あー、うん。来週から浴衣祭りでしょ。お店のレンタルの浴衣って、なんか気持ち悪いしー。買っちゃった」
「そうなんだ」
「うん。え、だけどあなたお店の人だっけ?」
「いや、そうじゃないけど、前から目をつけてたんだ。2人可愛いから」
「えー」
そう言いながら2人は顔を見合わせ、まんざらでもなさそうに笑った。
「歳はいくつなの?2人」
「うちが20歳で、この子が今度19歳」
な、なんと…。
「で、どうなの?今の店」
「どうって、…うーん。」
「まんねりかも」
また2人は顔を見合わせ笑った。
「もし、その気があるならうちに来ない?君達なら条件かなりいいよ」
「まじでー?」
「まかせなよ。俺に。取り合えず、俺の名刺渡しておくね。…はい。」
「あー。ダイアン?ITグループじゃん」
「そう、申し分ないでしょ?」
「そうだねー。大きいもんね」
「じゃ、今度面接に来てよ。俺の方で事前に話しを通しておくからさ」
2人はまた顔を見合わせ、微笑んだ。
「じゃ、来週火曜日ならうちら休みだから、行こうかな」
「わかった。じゃ、約束ね」
「うん。約束ね」
「入店決まったら、お祝いに何かご馳走するから」
「ホントにー!わかった。じゃ、必ず行くね」
「ありがとう」
…なんと、入れ食いではないか。
「ブラドさん。難しいかも知れませんが、飲み客のキャッチと同じでよく相手を観察する事が大事なんですよ。だけど、女の子は難しいですからあせらなくてもいいんで、こまめに声を掛けて行きましょう。数打てば当たりますから」
奥が深い…。
「だけどまだ、ブラドさんには少し早いかも知れませんね」
マネージャーは私に気遣って言ったのだろうが、この言葉が私のプライドに火をつけた。
封印してはいたが、ドラキュラの能力を少しだけ披露してやるか…。
第11夜【ドラキュラの能力】後半に続く
