想像通りゲレンデからの壮大なパノラマが広がっており、空気も清清しい。
久し振りに新鮮な生血をたっぷり吸ったかのように、身体の隅々まで力が湧いてくる。
約10年振りと言う事もあり、少々緊張はするがプロスキーヤーを目指したくらいである、身体が覚えている。
ハウスで身支度を整え、リフト券も購入し、いざゲレンデへ。
久し振りなので先ず足慣らしに、5本あるコースの中から中級の(滑走距離1600m)コースを選びリフトに乗った。
リフトから見る景色はまた素晴らしいものだった。
押し寄せる波のような山脈がどこまでも続いているように見える。
風景を見ているうちにあっという間にスタート地点に到着。
いよいよである。
「うん?」
何か、おかしい。
私の頭にあるスキー場とは何か雰囲気が違う。
ニュージーランドのスキー場だからか?
いや、人の動きが何かおかしい。
「なんだ、あのスキー板は?」
やたら幅の広いスキー板、それも1本だけ。
ほとんどの人がその奇妙なスキー板をはいている。
1本のスキー板のビンディングに両足を固定している。
「あれで滑れるのか?」
それだけではない。
コース上のいたるところで雪の上に座っているではないか。
この異常な光景に言葉を失い、突っ立っていた私の肩を叩く者が現れた。
「こんにちは」
スキー帽とゴーグルの為、よくは分からないが少々年配の男性である。
「あなたも何か違和感を感じてるようですなぁ」
「そう言う貴方は…」
「いや、これは失礼しました。ヴラド・ツェペシュ伯爵」
なんとこの男、私を知ってるのか?
「昨日、会合の会場でお見受けいたしましたよ。実は私も出席しておりました」
「そうだったんですか」
「はい。伯爵は有名だから、皆興味深々で見ておりましたよ」
「いやいや、有名だなどと…」
「私はこの地のバンパイアで、ブラセリー・ハルクと申します。擬態は狼のリカントロープです」
「狼?」
「はい。狼男、ウェアウルフのリュカオーン王とは親戚筋に当ります」
「なんと!リュカオーンと親戚なのですか?」
「リュカオーン王からもドラキュラ伯爵のことはよく聞いておりました」
「それで今、リュカオーンはどうしてるのですか?」
「残念ながら、まだ転生したとの情報は入ってきておりません」
「やはりそうか…」
私もドラ次郎を駆使して狼男リュカオーンの情報を得ようとしたが、未だ有力な情報が無いままである。
「何れにしてもリュカオーン王の情報は、1番に私の元に入りますので何か分かりましたらすぐに連絡いたしましょう」
「手数だが是非、頼みます」
「わかりました。それはそうとこのスキー場、いや、このスキー場だけではないのですが異様な雰囲気でしょう」
「うん。あのおかしな雪の上に腰を下ろしている輩達はいったい何なのですか?」
「スノーボーダーですね」
「スノーボーダー?」
「スノーボードですよ。ここ数年で世界中のスキー場で爆発的に増加して、今やスキーに取って代わろうとしているスポーツですよ」
「スノーボード…。」
「はい。中世から慣れ親しんできた伝統のスキーを愛する者たちが、今では肩身の狭い思いをしてますよ。奴らはどこでもかしこでも腰を下ろして座りますからね。と、言うか座らないと止まれないんですけどね」
「う〜む…」
「ここではなく、トレブルコーンスキー場に行けば、スノーボーダーとの境界もはっきりしてるし、スキーをする人にとっては良かったかも知れませんよ」
「あぁー。やっぱり、トレブルコーンだったかぁ」
「ま、折角だから、取りあえず滑ってみませんか」
「そうだな…」
2人はゴーグルをはめ、ストックで雪を打った。
雪質は最高のパウダースノー。
適度なこぶもありコース取りも面白い。
少し大きめのこぶを蹴った次の瞬間、
「きゃ〜!」
なんと、こぶの死角に座り込んでいるスノーボーダーの女性がいた。
私はとっさにエッジを立てカービングターンでかわした…つもりであったが、腕が鈍ったか接触してしまった。
女性は錐揉みしながら、滑る落ちて行く。
私もそれに続く。
第10夜 【ニュージーランド編】その参に続く。
