先輩であり、マネージャーであり、私の指導係でもある山田マネージャーは一生懸命仕事を教えてくれた。
私を外人と思っているのか、身振り手振りが多い。
まぁ、外人と言えば外人だが…外バンパイアと言うのが正解かも知れない。
山田マネージャーの説明の内容は以下の通りである。
【キャッチの仕事】
キャッチと言うのは基本的に勧誘することであり、勧誘する相手は飲みに来る客であり、時に店で働くキャバ嬢(フロアーレディー)である。
客に声を掛ける場合は、タイミングが大切であり、食事を終えた後「さぁこれからどうしようか」等と考えながら、ゆっくり歩いている2〜3人の客は乗ってきやすいらしい。
考えている事が何故分かるのかと尋ねると、それは職業上の勘との事。
また、ひとりで歩いてる客でもキョロキョロしながら、少々挙動不審な行動の客は乗ってくるらしい。
そう言う客は、こちらから声を掛けてはくれまいかとチラチラ見るので、分かると言う。
どこかの店から出てきたばかりの客も狙い目で、キャバクラと言うのは時間制であり1時間経つと(店によっては40〜50分のところもある)、延長料金が掛かる。
客は女の子とコミュニケーションが取れなかったり、気に入った女の子がいなかったりすると、そそくさと切り上げ次の店を物色する。
なんとなくバンパイアの習性と類似するところがあるのが気になるが…
そんな客はチャンスだと言う。
女の子さえ気に入れば、上得意客になる可能性があるらしい。
配置場所は、1階のエレベーター前、ビルのある通りの交差点付近、大通りで人通りの多い横断歩道周辺等々。
何人かでローテーションを組んで配置換えをするして行くらしい。
おいしいのはキャバ嬢の勧誘で、店に入れば人気が出そうな女性が歩いていると、片っ端から声を掛ける。
確率は低いがもし勧誘が出来れば、そのキャバ嬢が稼げば稼ぐほど、勧誘したキャッチにも見返りがある。
山田マネージャーが若いのにマネージャーをやっているのは、キャバ嬢の勧誘が飛びぬけていたせいもあるらしい。
マネージャークラスになると代表の代行で、ホールを仕切ることもあるらしく、グループの中で新しい店がオープンする時などにその店の代表として抜擢される可能性が高いとの事。
今のダイアンの代表も、そう言った経緯を辿って来ているらしい。
等々、ひと通り説明を受けた後、山田マネージャーと私は店を出て配置場所へと向かった。
今日は初めてなので、山田マネージャーが見本を見せてくれるとの事で、お手並み拝見と行こう。
ビルのある通りの交差点に到着した。
「いいですか、ヴラドさん。とにかく、歩いている人をよく観察すること。これが基本です」
「観察か…」
「ほら、あそこに歩いてる二人組がいるでしょう」
「うむ」
「あの二人は、今その焼肉屋から出てきましたね」
「あぁ、そうだった…かな」
「ほら、店の前で立ち止まって何やら立ち話をしてるでしょ」
「うむ」
「さて、これからどうする?って、話してるんですよ」
…この男は、唇が読めるのか?
「じゃ、行きますよ」
そう言った時はもう既にその2人組に向かって早足で歩いていた。
慌てて私も後に続く。
着くと同時に,
「お客さん。満腹になったところで、キャバどうですか?」
…さり気ない。
「今なら、サービスタイムで1時間おひとり5500円ぽっきりで飲み放題ですよ」
ハウスボトルならいつでも飲み放題じゃないのか?
「ちょうど今日、入りたての女の子がうじゃうじゃいますよ」
…いたか?
「どうですか。1時間だけ。お願いしますよ」
「なんて店?」
客も反応を示した。
「ダイアンって言う店です。すぐそこですよ」
「本当に5500円なの?」
「僕がうそ言うわけ無いでしょ」
…初対面だろ。
「僕に任せてください。じゃ、行きましょう」
…四の五の言わせないところが凄い。
そう言えば私も面接のとき、この男に有無も言わさず客として店に連れ込まれたんだった。
お陰で、ゆきと会えたのだが…。
私の時と同じく、考える隙も与えずビルの4階へとその客を送り込んだ。
うーん…この男、人間にしておくのは惜しい。
再度、配置場所に戻る。
「わかりましたか?ヴラドさん」
「うむ…」
分かるには、あまりにも素早過ぎた。
「じゃ、今度はブラドさんが声を掛けてみて下さい」
「え、私がやるのか?」
「はい」
私とした事が、少々緊張してきた。
「…では、やってみるとしよう…か」
暫く人の流れを見てた後私は、少々怪しげにキョロキョロしながら歩いている、ひとりの男に目をつけた。
「よし」
私は意を決して、その男に近づいた。
「そこのお方…」
急に声を掛けられたからか、その男は飛び上がった。
「は、はい!…何か…」
声が上ずっている。
「どうだ。酒を飲まんか?」
「えっ。お酒?」
「そうだ。酒を飲まんか?」
「…あぁ。そう言う事ですか」
急に男の目つきが変わった。
品定めをするように、私を爪先から舐めるように見上げた後、
「いいわよ!」
…ん? 何だ…この男は…。
「いいわよぉ。どこに飲みに行く?私が知ってるお店に行く?それとも…」
私は、何か間違ったのか?
「じゃ、行きましょ。行きましょ」
男は、私の腕を取ると力強く引っ張った。
「いや…ちょっと待て…。いったい何処に…」
そのとき、山田マネージャーが割って入ってくれ、
「あ、違うんですよ。この人うちの店のキャッチなんです」
その男は、私の腕を放すと、
「何よ!どう言う事よ。そっちが誘ってきたんじゃないの!」
「すいません。まだ、新人で慣れてないもんで」
「失礼しちゃうわね!もう…」
男は不自然にお尻をくねらせながら、早足で細い路地に入っていった。
「……」
気がつくと周辺には、イースターの復活祭を思わせるような黒山の人だかりが出来ていた。
皆の顔には笑みがこぼれており、中には腹を抱えて笑っている者もいる。
この日から私は、この辺りでは誰もが知るところの有名人となった。
こうして、私ヴラドのキャッチ修行はスタートしたのであった。
