「どうなんですかねぇ。あまり、この辺までは来ませんしね」
「しかし、不気味な家だな。だだっ広い上に、薄暗いし」
「先輩…あれ、何ですかね。あの大きな箱」
「うーん。なんだか、棺おけみたいに見えるが…」
(棺おけではない。棺だ。…ま、どちらでもよいが)
「ミイラでも入ってんじゃないんですかね」
(ミイラではない。ドラキュラだ)
NTTからの依頼で来た配線工事の2人は、どうやら私の入っている棺が気になって仕方がないようだ。
前もって、不在だから勝手に入って、工事をするよう言ってあったので、この家の主が棺の中で様子を窺っていよう等とは、思いもしないだろう。
電灯がないと言っても、工事がしやすいよう、カーテンを全開にしている窓からは、陽の光が差し込んできており、昔のように灰になることはないにしても、紫外線アレルギーの私としては工事に立ち会う訳には行かない。
前もって、マスターから段取りの電話をして貰っているだけあって、手際よく作業は進んで行く。
「よし、開通試験もOKだし帰るとしようか」
「そうですねぇ…」
「ん、…どうした」
「先輩。…ちょっとあの箱、覗いてみませんか」
(…な、なんだと)
「ばかな事、言うな。人様の家の物を勝手に触るわけにはいかんだろ」
(さすが、先輩だ。しっかりしておる)
「だけど、盗むって訳じゃないんですから…」
「…ま、それもそうだな。見るだけだからな」
(まずい…)
近づいて来る2人の足音を聞きながら、私は究極の選択を迫られた。
この姿を見られたら、間違いなく私はドラキュラであることを見破られるであろう。
見破られないまでも、変態扱いされるのは間違いない。
現代の領主になることを目論む私としては、今、正体を暴かれる事は致命傷である。
…変態扱いは、もっと困る。
こうなれば、仕方がない。
棺から飛び出し、2人の生血を吸い、私の下僕となって貰うしかない。
今時、流行らない方法だがやむを得ない。
どちらかの手が、棺の蓋にかかった。
「先輩。結構重いですよ。この蓋」
「そうか。よし、じゃ、手を貸そう」
蓋は鈍い音を立て、少しずれた。
隙間から、陽の光が差し込んできた。
私は、日焼け止めを塗っておけば良かった等と、つまらない後悔をしながらも牙を剥いた。
ギャー!!
